自身の器の裏側

UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川2023

例えば、「器」には表と裏があるのだろうか?とふと思いを巡せました。
中に物を入れる内側が表で、手が触れる外側は裏なのか?周りからよく見える外側が表で、物が入ってほとんど見えなくなる内側が裏なのか?等と。

私には、他者からなかなか理解されづらい「内在する器」と云うものを胸の辺りの奥にいつもぶら下げて生きています。この内在する器にも外と内があり、私の「思考の目」はその時々で外側にフォーカスされる時もあればそれが内側になる時もあります。しかし、この内在する器自体が裏であり、表とは世間に晒している私の体そのものです。表とは「公」で、裏とは「密かなもの」とでもいう認識が一般的なのでしょうか。私の制作はその密かな裏側を表に引きづり出してくる作業のような気がします。私は実際何も知らないで生きています。私の表である自身の姿を生で見たことがなければ、裏も覗こうにもなかなか厄介で、自身のことであるのに正直理解できない日々です。ただ、毎日のように編む水引によって具現化を試みる私の「内なる器」は他者と交わることでいくらでも形を変えることがこの20年の実験で唯一分かってきたことです。この内在する器が大きくなることや質感がグレードアップすることよりも日々形を変容させることのほうがはるかに豊かだという事実です。そしてその変容の大概は他者によってもたらされます。

今回展示させていただく中屋邸はある意味中屋さんの器の裏側です。公にはしてこなかった領域です。そこに私の器が触れます。そのことで起こりうる私の器の形の変化は私にも未知です。そして表なのか裏なのかわからない私の器を通して中屋邸と云う器の裏が公になる時、それを見る人は少し自身の内側についても直視せざる得ないのではないでしょうか。あなたには変容可能な裏の器は存在しますか?




開催期間:2023年2月23日(木)〜3月19日(日)
開催エリア:大井川鐵道無人駅周辺 (静岡県島田市・川根本町)
入場料:原則鑑賞無料
TAKAGI KAORU 作品設置場所:抜里駅 中屋邸
展示作品:『自身の器の裏側』


UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川2023

2018年より静岡県島田市と川根本町という2つの市町で開催を重ねる芸術祭。
静岡県と山梨県の境にある間ノ岳にその源を発し、幾つもの渓流を合わせながら、駿河湾に注ぐ全長168kmの大井川と、
河川に沿って走る大井川鉄道無人駅を入り口とした集落全体をアートの舞台にしています。大井川鉄道は全20駅のうち、16駅が無人駅。
過疎化の進む当エリアには、無人駅をはじめ、耕作放棄地、空き家など、人がいなくなることで生まれてきた場所がたくさんあります。
そのような場所に、アーティストが息を吹き込み新たな風景を作ることで、目を凝らすと見えてくる昔ながらの風習、温かな人の営み、雄大な風景も同時に発信されていきます。

無人と呼ばれているけれど、確かに存在する豊かに生きる人々。
無人と呼ばれる場所に、どんどん増えていく手の入らない場所。 この2つを、アートとともに発信し、地域の再発見に導く取組です。
無人駅の先のワンダーランドへ、ようこそ。

芸術祭公式サイト

https://2023.unmanned.jp/