旅に必要な道具を心に持て

文/TAKAGI KAORU


哲学者「森有正」は言う。
「はるかに行く事は、遠くから自分に帰って行く事だ」と。
私は遠くへ、高くへ行きたいと願う。
それはいずれ帰って来る自身の中を豊かにし、
じっと座っていても溢れ出る景色を見る事ができるからだ。
その景色を知っていればいる程人間は孤独になる。
孤独とは自身しか知らない景色を多く持っている者の事だと。
誰とも分かり合う事が出来ない自分だけの景色。
それを多く持っている者。
だから孤独は不幸なものでは無いと彼は言う。

今回誰もがそっと薄目を開けながら、
自身の「うつわ」を見たのではないだろうか。
見たくは無かったのかもしれないし、見た事もなかったのかもしれない。
ただ、確かに皆「うつわ」を自身の中に持っていた。
これは驚きだった。
私が言っている「うつわ」を皆探っていた。
探れたと云う事は内在していたのである。

私にとって、日々起こる事全てが「過程」であり、
それを受ける身は「道具」である。
「過程」を「道具」がうまく受けてやれた時。
その時、この世に無かったものと出逢える。と思っている。
これは人生の中でも、作業場の中でも同じ事が起きる。

皆毎日作業をしているのだ。
なんらかの作業を。
ただ、自分が持っている道具の種類、内容を知らないと旨くは使えない。
「手持ちの道具を知る。」
これは面白い。なぜなら今の自分はどこに行けるか、
何ができるか知る手だてになるからだ。
そして、もちろんその道具を使える人間にならなければ、
何処にも行けないし、何もできない。

私だけに必要な、私だけに使える道具。
それが「内在するアクセサリー」だ。
それは遠くに行き、また自分に戻って来る為には無くてはならない。

July 2013

うつわをさぐる時間

photographer: Waki Hamatsu
そこにうつわがあるなら
文/TAKAGI KAORU

選ぶこと・与えること
文/mamoru・サウンドアーティスト

「うつわをさぐる時間」をさぐる
文/堀畑裕之・matohuデザイナー

旅に必要な道具を心に持て
文/TAKAGI KAORU